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広島高等裁判所 昭和52年(け)5号 決定 1978年6月29日

主文

原決定を取り消す。

請求人に対し金一、一二四、八七〇円を支給する。

理由

本件異議申立の趣旨及び理由は、請求人代理人弁護士原田香留夫、同藤堂真二連名作成名義の「訴訟費用補償決定に対する異議申立書」と題する書面に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用し、これに対して当裁判所は次のとおり判断する。所論は要するに、再審請求から再審開始決定に至るまでの訴訟費用も刑事訴訟法一八八条の二第一項にいう「その裁判に要した費用」に含まれると解すべきであるから、原決定には、公判前の訴訟手続は同法条にいう「その裁判」には含まれないとして、公判前の手続に要した費用を補償しなかつた違法がある。また原決定が費用補償の対象となる弁護人を四名に限定し、その報酬額を一人につき八〇、〇〇〇円としたのは不当に低額であるというにある。

よつて検討するに、刑事訴訟法一八八条の六によれば、同法一八八条の二第一項又は一八八条の四の規定により補償される費用の範囲は、被告人若しくは被告人であつた者又はそれらの者の弁護人であつた者が、公判準備及び公判期日に出頭するに要した旅費、日当及び宿泊料並びに弁護人であつた者に対する報酬に限るものとされている。ところで、再審請求手続は、再審開始の要件の有無を判断するための証拠調べを行い、請求人・検察官の意見を聴く期日であつて、右にいう公判期日に該らないのはもちろん、公判期日における審理の準備のために行なわれる公判準備にも該当しないものと解すべきである。それゆえ、再審請求手続において生じた費用は、同法一八八条の二にいう「その裁判に要した費用」には該らない。従つて補償すべき旅費、日当、宿泊料は、再審開始決定確定後の第一回ないし第三回公判期日及び判決宣告期日の四開廷分に限られるものである。

次に補償すべき弁護人の範囲、報酬額について検討するに、請求人に対する当裁判所昭和五〇年(お)第一号再審請求事件記録によれば、同事件の弁護人は、判決宣告時の最終段階では六八名であるが、うち二一名は再審開始決定の前後を問わず全く出頭したことがなく、残る弁護人のうち第一回公判には二二名が出頭して、うち七名が意見陳述、証拠調べの請求等実質的な訴訟行為をしており、第二回公判では二五名が出頭し、うち九名が意見陳述、証人尋問等を行つており、第三回公判では一八名が出頭し、うち一七名が弁論をし、判決宣告期日には三二名が出頭しているが、うち三名は弁論終結後に選任された弁護人である。そして右四回の全期日に出頭した弁護人は、和島岩吉、大塚一男、原田香留夫、好並健司、網田覚一、橋本保雄、渡辺忠雄、於保睦、藤堂真二の九名である。同弁護人らの本件再審事件において果した役割、再審開始前の手続及び公判期日の出頭状況(弁護人大塚一男、同原田香留夫、同藤堂真二は再審開始決定前の全期日に出頭し、同和島岩吉、同網田覚一は、昭和五一年二月二五日の東京高等裁判所における証人尋問期日に、同橋本保雄は同年一月二一日の山口県豊浦郡豊田町における証人尋問期日にそれぞれ欠席しているが、その余の期日には毎回出頭している)、公判審理の状況、再審開始決定前の立証準備その他記録によりうかがわれる諸般の事情を総合考察すると、原決定が費用を補償すべきものとした弁護人和島岩吉、同大塚一男、同原田香留夫、同藤堂真二のほか同網田覚一、同橋本保雄についても左記のとおり費用を補償するのが相当であると認められる。

また弁護人であつた者に対する報酬の額は、刑事訴訟費用等に関する法律(以下単に法という)八条二項によれば、裁判所が相当と認めるところによるとされており、本件事案の特殊性、公判前の準備活動の程度、開廷日数、当裁判所における国選弁護人報酬基準及びその運用実績などを考慮すると、その額は原決定のとおり弁護人一人当り八〇、〇〇〇円を支給するのを相当と認める。

弁護人であつた弁護士網田覚一、同橋本保雄に対する旅費、宿泊料、日当、報酬について

弁護士網田覚一は大阪市北区絹笠町に、同橋本保雄は広島市八丁堀にそれぞれ事務所を設けていることが明らかであるから、これを前提として旅費、日当、宿泊料を算出する。なお、弁護士網田覚一については特別車両料金を支払うこととする。

一  旅費

1  路程賃

弁護士網田覚一については、法八条一項、三条、刑事の手続における証人等に対する給付に関する規則(以下「規則」という)五条一項、二条により広島駅・当裁判所間往復四・八キロメートルにつき、端数切り捨てのうえ一キロメートルにつき一五円支給することとなるから、一回出頭につき六〇円となり、四回出頭分二四〇円である。

同橋本保雄については、補償すべきものはない。

2  鉄道賃

法八条、三条により計算すると、弁護士網田覚一については、大阪・広島間旅客運賃往復五、二〇〇円、新幹線特急料金往復五、六〇〇円、同特別車両料金往復九、〇〇〇円合計一九、八〇〇円であるから、四回出頭分七九、二〇〇円である。

同橋本保雄については、補償すべきものはない。

二  宿泊料、日当

弁護士網田覚一についても、同和島岩吉と同様、第二、第三回公判期日につき各二泊、その余の期日につき各一泊、いずれも広島市内において宿泊する必要があつたものと認められるから、計六夜分につき規則五条二項所定の乙地方の額一夜当たり七、三〇〇円を支給することとすると計四三、八〇〇円となる。

同橋本保雄については、宿泊料として補償すべきものはない。

次に日当については、法八条一項、四条、規則三条により算出するが、右両名について、第一回ないし第三回の実質的審理を行つた公判期日(A)と、判決宣告のみの期日(B)と、出頭のためもつぱら旅行に要した日(C)とに区別し、当裁判所の証人等の日当の支給基準に則つて、一日当り(A)については三、二〇〇円、(B)については一、六〇〇円、(C)については右基準が改正された昭和五二年七月一日以後につき二、〇〇〇円、その余につき一、八五〇円とすると、右両名につき(A)各三日、(B)各一日、弁護士網田覚一につき(C)六日(うち五日分は一日当り一、八五〇円、一日分は二、〇〇〇円)であるから、日当の総額は三三、六五〇円となる。

三  報酬

前記のとおり弁護人であつた者一名につき八〇、〇〇〇円を支給するのを相当と認めるから、計一六〇、〇〇〇円となる。

以上の合計三一六、八九〇円と原決定が支給すべきものとした請求人分の旅費、宿泊料、日当並びに弁護人四名分の旅費、宿泊料、日当、報酬の合計八〇七、九八〇円を合算した一、一二四、八七〇円を請求人に支給するのを相当と認める。論旨は右の限度において理由がある。

よつて刑事訴訟法四二八条三項、四二六条二項により原決定を取り消し、請求人に対し一、一二四、八七〇円を交付することとし、主文のとおり決定する。

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